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TOPページ > ハービー・山口の「雲の上はいつも青空」 > 第37話 『ポートレート』

第37話 『 ポートレート 』

かつて雑誌の仕事でアメリカの女優、ブリジット・フォンダという方を撮影したことがあった。銀座の洒落たホテルに一室で、三脚をセットし、ハッセルブラッドを雲台にのせ露出を計り、彼女の登場を待った。初対面である彼女は一体どんな人柄なのか・・・ツンツンした人ではなくフレンドリーな方だと良いなぁ、と僕はこころの中でつぶやいていた。
 ポートレートというのは、モデルと写真家とのコラボレーションだ。どちらかが嫌々ながらのフォトセッションだと、その嫌々感がいくら取りつくろっても、写真の雰囲気として写ってしまうことがある。被写体は俳優さんなので、いくら嫌な気持ちがあってもシャッターが切られる瞬間に演技をして笑顔を作ってくれるものだがなにか空しい。昔、駒沢公園で雑誌のグラビアページを撮影中にこんなことがあった。僕が「こちらスタンバイ出来ました。撮影OKです!」と声をかけると、モデルになってくれた有名女優さんは突然楽しげな表情を浮かべ、空を見上げたり、花にそっと視線を落としたりの「しな」を作り、シャッターチャンスを演出してくれた。僕は続けさまにシャッターを切り、6X4・5判の15カットをたちまち終わらせた。「フィルム交換しまーす!」と彼女に声をかけるとすぐに新しいホルダーに交換した。ちらっと彼女を盗み見ると、なんとも、「早くこんな撮影終えたい、なんてつまらない一日なの」と言わんばかりの冷めた顔をしていた。その直後、「撮影お願いしまーす!」と声をかけると、その声を合図にまるで別人の様にいきなり満面の笑みに変り、彼女の顔がファインダー一杯に拡がった。「良い笑顔ですね。」と彼女を褒める」。もちろん本物の笑顔ではない。15カット後、再びホルダーを交換する。彼女の冷たくさめた表情を僕は盗み見る。30秒後、撮影が再開される。再び作り笑顔を追いかける。僕は笑顔を撮らされているだけだ。30分、これの繰り返しである。女優も僕も辛い。双方が嘘をつきあっているのだから・・・
 人気俳優はしばしばこんな状況を体験しているのだろう。あとからあとから追いかけてくる取材の申し込み、撮影、同じ質問。これも仕事の一つだが飽き飽きすることだろう。
 また、こんなこともあった。ある若手のタレントをスタジオで撮った時のことだ。彼は歌も歌う。今もテレビドラマに出ていて人気を得ている。ファインダーの中の彼は無関心で無表情のままだった。シャッターを切れずにいると、「こいつなんで撮らないんだ。」、と言わんばかりの不機嫌な顔になった。少女雑誌には使えない恐そうな顔だ。
 僕は思い切って「もう少し柔らかい表情だと嬉しいんですが・・・。」と言ってみた。すると彼はスタジオ中に響き渡る大声で、「こういう顔なんだからしょうがないでしょ!どうすりゃいいんだよ!あーわかんねぇよ!」とわめきちらしたのである。タレントのマネージャーは、いつもタレントを甘やかせているのだろう、なにも言わずに無関心を装っていた。雑誌の編集者、ライター、ヘアメイクさんは青ざめた表情でこちらを心配そうに見つめていた。僕は一旦、柔らかい表情を狙うのをやめ、「じゃぁ、そのままで。」といって35ミリ、一本をまず撮影した。この後スタジオから出て近所にロケに出た。東京ミッドタウンが出来る前、横道には閑静な場所が残っていた。突きあたりは階段になっているので車は入ってこない、知る人ぞ知る絶好のロケ場所だった。階段の手前には古い木造の住宅が何棟か建っていて風情があった。30分程、この近所で撮影をした。ロケアシが要領よくレフ板を使ってシャドーを起こしてくれた。そのうちタレントの表情は徐々に和らぎ、僕の狙いに近づいてきた。5〜6本撮るうちかなりの手応えがあった。スタジオに戻ると、彼なりに僕の仕事振りを見ていたのだろう。先程の険しい表情は消え、「お疲れ様でした。ありがとうございました。」と僕に握手の手を差し伸べてきた。僕はひと安心して「ありがとう。」と彼の手を握り返した。編集者のKさんが、「ハービーさんだからなんとかなったけど、駆け出しのカメラマンだったら、あの剣幕の中、一枚もシャッター切れなかったでしょうね。」と胸をなでおろしながら安堵した顔をした。
 上記の2例はかなり極端な場合である。誰しも体調や機嫌が悪かったりする時がある。そんな時に取材がぶつかると不運だが、終始なごやかな中で取材出来ることがほとんどなのだ。
 さて、ブリジット・フォンダである。彼女は伯父にピーター・フォンダ。伯母にジェーン・フォンダという名優を持つ稀有な血筋の方だ。ハリウッドを相手にしているから、日本の一雑誌の取材など取るに足らないものだろう。ところが5分後、彼女は実に和やかな表情を浮かべ僕の前に現れた。
 「あなたの様な方を撮影出来ることを誇りに思います。」と言うと彼女は嬉しそうに笑った。その表情に偽りがないことが僕の目に明白だった。彼女が日本にプロモーションしに来た映画は原題「It could happen to me」、私にもこんなこと起こるの、というラブコメディーだった。試写会で観た映画の中の彼女は実に爽やかな夢を追う若い女性を演じていた。今、その彼女が僕の目の前にいるのだ。
 僕は名刺と共にロンドンの写真集を差し上げた。早速彼女は写真集を開き、ページを進めた。往年のパンクのヒーロー、今ニューヨークで活動している服飾デザイナーの無名時代のポートレレート、結婚前のダイアナ妃、街の子供達・・・。写真集半端にして彼女は僕に目を向け、「今日はこんなに素晴らしい写真家に撮っていただけるなんて、私にとって大きな誇りです。」と感激してくれた。僕は再び「私にとっても誇りです。」、と繰り返し、最後に映画のタイトルを引用し、「あなたを撮れるなんて、こんなことが起きるんですね、と「It could happen to me」を付け加えた。すると彼女も「Oh! It could happen to me」 「私にもこんなことが起こるなんてね」、と言って笑った。たった15分だったが撮影は気持ち良く進行した。思い出したが、以前、クイーンのギタリスト、ブライアン・メイにこの写真集を見せるや、「君がこんなに素晴らしいカメラマンだとは知らなかったよ、どんどん俺を撮ってくれ!」と言われたこともあった。こうした信頼関係が築けて、はじめて撮る側も撮られる側も気持ち良くフォトセッションに臨めるものなのだ。
街で撮るスナップにしても、距離をぐっと縮めるとそれはポートレートになる。すると、そこには撮る側と撮られる側の一瞬の人格の探り合いが始まる。そこで、撮られる側が納得してくれれば撮影OKとなる。 人を撮る場合、それがセッティングされた取材上のことであっても、街中のスナップポートレートであってももっとも大切なのは、双方の人格だと言うことは間違いないだろう。