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TOPページ > ハービー・山口の「雲の上はいつも青空」 >第79話 『5月23日 それは恋文の日』

第79話 『5月23日 それは恋文の日』

5月23日は,恋文の日だそうだ。なるほど523はコイブミ→恋文となる。
その日、僕は朝8時に六本木ヒルズの33階にあるFM放送局 J-WAVEに向かった。別所哲也さんがパーソナリティーをなさっている朝の帯番組の5月23日放送のテーマが恋文、恋愛、キスなので生出演して欲しいと依頼されていた。
恋愛というと僕の最も不得意とするところではないか、、。
恋愛なんてごく限られた経験しかない。僕が恋愛について何を喋ることが出来るのか、、。
しかし、僕はラジオ出演が大好きだ。特に生放送のスリル感といったら、一度経験すると病み付きになってしまう。
僕が生まれて初めてパーソナリティーを受け持ったのも、ここJ-WAVE、午前1時より3時までの2時間の、Tokyo Hot Waveという生番組だった。
編集が効かないという潔さが独特の緊張感とリアリティーを生んでくれる。多少の失敗は聴いてるリスナーにとって大きな魅力となる。その失敗や、取りつくろうとするパーソナリティーの慌てぶりから、思わぬ素顔が見え隠れするのだ。ニュース番組でなければ、そうしたハプニングを楽しみにしているリスナーもいることだろう。

だが別所さんの番組は朝の看板番組。内容は引き締めなくてはいけない。
僕の出番は8時30分から8時45分頃までと知らされていた。
この番組に生出演するのは3回目だ。前回は2012年の3月初旬だった。東日本大震災から間もなく1年が経とうとする時期で、震災というテーマだった。僕は出版されたばかりの写真集「HOPE 311 陽、また昇る」を携えて放送に望んだ。
小さなスタジオの中で、マイクを挟んで会話を交わすわけだが、 時折り、別所さんも僕も目に涙をためて、それをお互い気づきながらも、その涙を悟られまいと、わざと大きな声を張り上げたりした15分間の出演だった。

スタジオからの帰りの日比谷線での車中、「さっきから別所さんも僕も涙をこらえて今日はお喋りしています。」と生放送中に発言すれば良かったと思った。
そうした、リスナーには見えないものをさらっと喋ることで、リスナーがさらなるリアリティーを感じてもらえるということがあるのだ。

昨年の秋口だったか、TOKYO -FMの朝の生番組「ブルー・オーシャン」に呼ばれた時、女性パーソナリティーの持月さんがエンディングで、「今日のゲストは写真家のハービー・山口さんでした!」と言った直後に、普通なら「ありがとうございました。」で終了すれば良いのだが、敢えて僕は付け加えた。
「さっきモッチーさんがニュース読んでいる時、僕はスタジオの窓の外の風景を眺めていたんですけど。皇居のお堀の揺れる水面にキラッ、キラッと太陽が反射して、まるで光の粒子と水面に揺れる波が鬼ごっこをしているみたいでした。ライトアップって夜しか無いと思っていたんですけど、気がつけばこんな素敵なライトアップが都会の昼間にはあるんですね!!」
すると持月さんの表情がみるみる輝き出し、ガラスの向こう側にいるディレクターやADたちがどっと喜んでいる姿が見てとれた。
「エーッ!ハービーさんって詩人!素敵!」と持月さんがフォローし、余韻を残す奇麗なエンディングとなった。
帰りがけ、ディレクターが嬉しそうな表情を浮かべて言った。「最後の素晴らしい表現ありがとうございました。あのコメントで我々が普段どういう状況の中で放送しているかが、しっかりとリスナーに伝わりました。」

さて、別所さんである。コマーシャルが流れる中、僕はスタジオに入り、別所さんに深々と頭を下げ、マイクの前の椅子に座った。彼もリラックスした満面の表情で3度目の出演となる僕を迎えてくれた。
コマーシャルが明けると、別所さんが僕を紹介した。その時の思わぬ一言で、恋愛について何を喋ろうか今ひとつ自信が無いまま出演時間を迎えた僕の心に火が付いたのである。

「さー、5月23日、恋文の日、そんな日にあえてこの方を御呼びしました。、シャッターの数だけ恋をするカメラマンのハービー・山口さんです!!」
僕は思わず「エーッ 上手いですねー!!」と声を上げた。彼なのかディレクターなのか、その一言で僕に仕掛けて来たのである。

そのお陰で、僕はいつもの調子を取り戻すことが出来た。
「そもそも,写真家にとって恋とはどんなものでしょうか?」
「街で素敵な女の子を見つけますね。僕は『街角の天使たち』、と呼んでいますが、彼女たちを撮らせて頂く、もうそれ自体が僕のラブレターですね。
万が一、その写真を後日、ご本人に届けられたら、または写真集の中や個展に展示してあるのを偶然見つけてくれたら、それは恋文が届いたということになります。でもご連絡先を聞く訳ではないので、もう2度と撮れない。そこでその一瞬の数回のシャッターに賭けるわけです。もう会えないという一抹の寂しさを抱きながら、ふと失礼でない範囲で心の中に上がりこんで撮影するわけです。この写真がその方の人生の中にずっと残って、撮ってもらって良かったな,と思って頂ける、そしてその方の幸せを願って最高のクオリティーを求める訳です。」

「あー。ちょっとお邪魔してプライベートな表情も垣間見る?」
「仰る通りです、従って、失礼のない様に敷居をまたいで、心の中に上がり込むというかお邪魔するということで、私は写真界のヨネスケと呼ばれるわけです!隣の晩ご飯!」
「ヨネスケですか!?面白いですね。」
「どんなタイミングで人を好きになりますか?」
「まずビジュアルから入りますけど、あとは周囲を和ます雰囲気とか人柄とかを見ますかね、、。僕の最近のtwitterに書いたんですけど、”家を出て5分もしないで川沿いで最高の場面に出会った。遠くに黄色い帽子をかぶった幼稚園児の列、そしてこちらに向かって歩いて来る、小さい犬を連れた可愛い女の子。最高のシャッターチャンス!!でもカメラはバッグの中、一瞬のチャンスを撮り逃してしまった。こういう場面を撮りためて、今の僕があるというのに、、”
そして 翌日のtwitterには、”今日はライカを胸に下げて代官山。ふと路地から現れたモデルの様に可愛い顔をした女の子、金髪の髪と人魚の様な完璧な姿が日溜まりの中で輝いていた。つかさず一枚シャッターを切る、そして返って来た弾ける笑顔、もう一枚。このカットから僕のトキメキが写っていることをひたすら願う。”

「エーッ、今の聞いていると、本当に光景が目に浮かびますね!皆さん、これ、今、ハービーさんは原稿を読んでいるじゃないんですよ。実にスラスラと、生で喋っているんですよ!まるで一遍の小説ですね。恋すると写真の撮り方も変わりますか?」
「そうですね、二十歳の頃に出会った、公園でバレーボールをしていた女の子、そのボールが僕に当たりそうになった時の僕を心配してくれた表情。瞳のさらに奥の心が見える様な、、。その一年後、偶然同じ場所で彼女に会ったんですけど、彼女だけは、カメラではなく、心のフィルムに残しておきたかったですね。
ですので一度、横須賀線に乗り、北鎌倉で降り、円覚寺の境内を歩き、夕方に東京は戻ったんですが、車中、朝日が彼女の黒髪を白く照らし、境内ではしろいTシャツに白いバスケットシューズの細身のジーンズ、そこに完璧な絵がありました。そして帰りの電車、今度は反対側の窓から差し込む夕陽に照らされたオレンジ色に輝く黒髪,その髪が窓を開けると流れ込んで来た風にはらりとゆれた。僕はカメラを構えてシャッターを切る真似をする。それを見て笑顔を浮かべる彼女!あーっ,この瞬間よ永遠に止まってくれと願いをこめた!!
カメラを持って行かなかったから、そうした一瞬,一瞬が走馬灯の様にぼんやりとではなく、ハイビジョン映像の様にはっきりと思い出すことが出来るんです。誰でも、ネガやデータのない、でも心の中の記憶というアルバムを持っているんじゃないでしょうか!」
僕は、まるで無声映画の弁士の様なドラマティックな語り口で喋った。

「3月に日経新聞の文化欄に「光 十選」というタイトルでエッセイを連載させて頂いたんですが、その一話にこんなことを書きました。」

「僕が27歳の頃でした。ロンドンからフランスに行った時、ジャンルー・シーフという写真家の作品に触れました。その中の一枚、白いドレスを着た若いモデルが花束を持って、階段の踊り場で窓から差し込むヨーロッパの光を受けてたたずんでいるという、実に清楚な写真を見たんです。そのあまりの美しさに僕はたちまち写真の中の彼女に恋をしました。その瞬間決して届かない写真の中の女性に恋をするという切なさを始めて知りました。それから30余年が経ち、つい先日、あるギャラリーで、その写真の作者のサイイン入りオリジナルプリントを見つけ購入したんです。まだ作品は僕の元には届いていませんが、その写真を額装して僕の部屋に飾った時、それは27歳の時に始まった彼女と僕との恋の成就になるのでしょうか?いずれいしても、その日、僕は上質のフレンチワインを開け、彼女に向かってグラスを掲げたいと思ってます!」

別所さんは、話を聞きながら、「えーっ」という、驚きとも興奮とも言える表情を浮かべて、僕を見たりスタジオの天井を見回した。

「ハービーさんはカメラマンになって何年ですか?」
「中学2年で写真部に入りましたから、そこから数えるともう、47年とか、半世紀ちかく、、」
「ファインダー越しに見る恋に年々変化はありますか?」
「いつもトキメキを撮りたいという気持ちはずっと変わりませんね。トキメキがある以上若くいられます。そうした写真を通して世界をもっと素敵に、幸せにしたい、というのが僕の究極の願いでしょうか!」

「ラブレターを書いたことは??」
「あまり記憶がないんですよ。ただ一度もらったことがあります。二十歳の頃、先程お話したバレーボールの少女から、たった一行の、、。」
「なんて書いてあったんですか!?」
「ただ一行です。今にも胸が張り裂けそう、、と。」
「初のキスは?」
「恋愛は苦手ですからね。二十歳を過ぎてからでしたね。」

別所さんは終始、顔を赤らめ、僕のキザな話に付き合って下さった。

出番の終わり直前に、「別所さん さっきからずっと赤面しっぱなしでしたが、、!」と一言、彼をからかった。そんな彼に向かって放送中、僕はマイク越しに数回、ライカのシャッターを切っていた。