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TOPページ > ハービー・山口の「雲の上はいつも青空」 > 第99話 『モデル撮影会にて』

第99話 『モデル撮影会にて』

何年振りかでモデル撮影会の講師を東京と京都の会場で務めた。現在では公園の使用の制約などの問題があって、大規模なモデル撮影会が開催されなくなったが、かつてメーカーが主催するモデル撮影会には、撮影指導の講師を務める写真家が数十名、そしてモデルがやはり数十名一堂に会し、その様は圧巻であった。
今年2016年、撮影会からお声がかかった。お客さんが500名とか600名くるので、モデルの数も多く、講師一人で、同時に2人のモデルを引き連れて撮影指導を行うのは、なかなか大変な仕事だ。公園内の要所要所で撮影に適した場所を決め、一人のモデルにポーズを付ける。そして背景に入らないように数十メートル離れた場所で、もう一人のモデルにポーズを付ける。
講師はこの二人のモデルの間を、右往左往、行ったり来たりしながら、50〜60名位のお客さんを相手に撮影指導を行うのだ。30分位で別の場所に移動し、また違ったポーズをつけてを繰り返す。それが10時過ぎから、途中一時間の昼休みを挟んで午後4時頃まで続くのだ。
ロケハンをしたとしても、その日の天候、お客さんの数、背景に入る一般の家族やカップル、子供たちなどとの流動的な状況があるので、写真的センスと、状況の処理能力が同時に要求される大変な作業だ。
さてこの9月と11月に久々に講師を務めたが、幸いモデルの中に何度も撮影している方がいたり、また講師陣も和気あいあいな雰囲気を出して下さって、肉体的には疲れたが、思い出に残る撮影会になった。
この撮影会で特筆すべきことがいくつかあった。それは、講師がモデルの位置とポーズを決めると、通常お客さんは我先に最もモデルに近い位置を争い、シャッターを切り始めるのだが、そこをたしなめ、まず座学を2〜3分始めてみたことだ。
私が何を話そうと、聞く耳を持たず、一心不乱にシャッターを切り続けるお客さんも多いが、同時に私の一言アドバイスをメモする数人がいらしたのだ。
「皆さん、モデルに一番近いところや正面が最適な撮影ポイントだと思われるでしょうけど、例えば、私のこの位置だと、木の枝が入っちゃうんですね。でも、この枝をフレームの中でこう処理すれば、かえって目に止まる写真になります。また、この電柱は普通は画面から排除しますよね、でもこう利用したらどうでしょう!」
そう言いながら、私のカメラのモニターを一人一人に見せて回ったのだ。するとその画面を覗き込んだ方々から「あっいいですね!なるほど!」という声が上がった。
そしてお客さんは嬉しそうに自分のアングルや距離を工夫し始めたのだ。
「まず、自分の立ち位置から撮ってみましょう。そこが意外とベストだったりします。何もモデルに一番近い正面がベストとは限らないんです。このシチュエーションでは、普通なら排除するものを逆に利用して特別な一枚を撮る、その柔軟性を養うことを課題としましょう。でも、どうしても、こちらに移動して撮りたくて、私のヘルプが必要なら仰って下さい。順番に入れ替えをしますから、、。ヘルプが必要な方はいますか??お一人さま千円で受け付けております!!」
ドッと笑いがどよめいた。

また、次に移動した所では、やはりモニターを見せながら、「今度は構図です。モデルの頭上にスペースを空けると希望が写ります。またその逆に、靴まで、さらに地面を多く入れるとリアリティーが写ります!」とシンプルな一言をかけた。
何人かは私のモニターを見るのを楽しみにしてくれて、メモる方も徐々に増えてきた。

そして次の場所に移動していく。
「はい皆さん、ここでは私はこの2枚をお見せします。横位置で、モデルのさやかさんを撮りました。そして次に縦位置も撮りました。いいですか!横位置はモデルの状況を説明し、縦位置はモデルの心の本質に迫る写真になるんです。」
注意深く聞いているお客さんの中に『へー!!そういうことだったのか!」という表情が増えてきた。

「はーい、あと10分で午前の部は終了ですから。一写入魂で集中して下さい。モデルはさやかさんという名前ですから、目線をもらう時は、にこやかに名前を呼んでみて下さい。きっと良い笑顔をくれますよ!」 私とお客さんとモデルとの雰囲気もかなりこなれてきて、撮影に熱が入ってきたのが感じられる。
最後まで残った十数人のお客さんが若く、そして学ぶ姿勢があるとみるや、私は遠慮なしにスパルタ口調でゲキを飛ばした。

「ほら、さっきから無言でシャッター切ってるんじゃないよ!さやかちゃんって大声で声をかけてみろ!自分と彼女だけの一瞬が撮れるぞ!ほらっ、自分の位置もどんどん変えて!逆の位置に来ると意外なものが写るんだ!縦位置、横位置、頭上のスペース、夢かリアリティーか、何を狙っているんだ!!」
回覧に来た主催者のお一人が「何だ!これ??」と思わず声を上げる程、ユニークな撮影会の運びだった。そんな調子で昼食をはさみ、午後は夕方まで撮影が続いた。午後は午前中には無かった、午後の傾く日差しが良い教材となる。斜光、逆光、さらに白い壁に落ちたモデルの影である。
「普通はモデルに集中するけど、こうして壁の影まで作画すると、単なる可愛いこちゃんの写真じゃなくて、どこかインテリな写真になりますよね。例えばラルフ・ギブソンの写真の様な、、。」
頷く方が何人かいた。
撮影会は無事終了し、お客さんたちは徐々に解散していった。何人かが今日の成果を嬉しそうに見せに来てくれた。「ハービー先生のおっしゃっていたことは、こんな感じで良いんでしょうか??」
そのモニターに浮かび上がった何十枚かのカットには、彼らが頭の中にメモしたことが生かされていて、この撮影会での進歩が確実に写されていた。


先ほどまでの興奮と喧騒が去り、葉を落としかけた木々の長い影が、どこか切なく、私たちの足元で揺らぎ、秋の冷たい風が吹き始めた。その後、場所を移動して、イタリアンレストランで主催者と講師陣、メーカーの方々との懇親会が行なわれた。
乾杯した後、焼きたてのピザや、パスタ、ワインを頂いた。「今日の参加者の皆さんは、とても熱心だった」、というのが講師陣からの感想だった。
宴もたけなわではあったが、明日が早いので、講師を務めた山岸伸さん、土屋勝義さんと私の3名は、一足先に会場を後にした。

山岸さんの車で中目黒まで送って頂くことになった。
「5分ほど歩いた所に車を止めてありますから、」と山岸さんは土屋さんと私の先に立って、夜の裏道を車に向かって歩き始めた。
しばらく行った先の路地を曲がると、「あの黒いやつです」と山岸さんが30メートルほど先に止まっている車を示した。
私たちが10メートルほどの距離に近づくと、突然車のエンジンがかかり赤いランプが点灯した。まるで時を計ったかのようなタイミングだった。
「ん? 運転する助手が、僕たちのことを路地を曲がったあたりから見ていて、今エンジンをかけたのか!」と僕は助手の仕事に感心した。
車番をしている若い助手がスマホをいじるのに夢中だったり、眠っていて、先生に窓をコツンコツンと叩かれて、慌ててエンジンをかける姿を、僕は想像していたからだ。

「やるな!この師匠に、この助手ありか!」
私はある種の感動を胸に土屋さんと、山岸さんの車に乗り込んだ。
若い男性の助手は終始無言で運転にだけ集中していた。
「お名前は?」「佐藤と申します。」
私と彼との会話はそれだけだった。

途中渋滞にひっかかることもなく、夜の幹線道路は快適だった。
時折、かなりのスピードで追い抜いていく車もあって、その赤いテールランプは瞬く間に彼方へ消えていくのだが、私たちの車は惑わされることなく、悠然と自分のペースで走り続けた。
やがて中目黒の交差点に差しかかり、山手通りの側道で車は停車した。私はお礼を言って車から降り、再び走り去るのを見届けた。佐藤くんという名前だけをしっかりと覚えた。

翌日、山岸さんにお礼のメールを送った。
そして「佐藤くんは良く出来た助手ですね」と一言添えた。
すると山岸さんからメールの返事が届き、私は再び感動することとなった。
「おはようございます〜
撮影会は晴れて楽しく終われました。
打ち上げの際には、隣の席でべらべら喋り大変失礼しました。ハービーさんと写真以外の話が出来た事がとても嬉しく、私の思う事と、ハービーさんが思う事が少し重なり、また頑張って写真を撮ろうという力が湧きました。
勿論、運転していた佐藤はハービーさんを乗せたので、私が何も言わなくとも慎重でした。
存在だけで運転が変わる、佐藤は純粋です。私は、アシスタントに何も教える事はないですが、ハービーさんを乗せた20分は佐藤には宝に感じたと思います。
ありがとうございました。又、京都でお会いできるのを楽しみにしています。
ありがとうございました。」

「山岸さんのメッセージを読んでいたら、涙が流れてきました。私もミュージシャンとか俳優さんも撮るのですが、写真家は事務所とご本人との間で大変ですよね。山岸さんはそうした中で、しっかりと自分を持って、世間の常識や義理を果たしながら生きていらっしゃるのだと思います。」



そして土屋さんからもメールが届いた。土屋さんはかつて篠山紀信さんのチーフアシスタントを務めていた経歴がある。
「昨夜山岸さんは凄く喜んでましたよ!あ〜した、僕たちが体験した篠山時代みたいな師匠と弟子の関係は、山岸さんで最後だと思います。佐藤さんは、幸せです。喜んでいました。」

久しぶりに撮影会に参加し、期せずして写真家のある一面に触れたことで、思わぬ感動を得た、貴重な一日になったのである。  2016年、11月20日